設計工学

設計工学は、製品やサービスの設計者の思考が従う法則性や規範を探求し、革新的な設計や安全な設計、環境を配慮した設計など、現代社会に求められる人工物設計の支援を目指す学問です。製造業における製品企画から基本設計、詳細設計に至る幅広いフェーズで用いられており、近年では、サービス業への応用など、設計を行う様々な業種へ展開されています。
設計は人工物の機能や構造に係る情報を生成する重要な活動であり、人工物がどのように生産され、使われ、保守され、廃棄されるかという製品ライフサイクルを考慮することが必要です。このように、現代社会の課題を解決する上では、設計を抜きにしては考えることができません。また、今までになかった新しい製品やサービスが世の中に普及している背景には、設計工学の技術や知見が活用されています。
設計工学の適用範囲は幅広いですが、本研究室では特に概念設計などの設計の上流段階を対象に研究活動を展開しています。
本研究室のアプローチ

設計支援システムの利用イメージ
設計工学においては、人間と人工物、そして人工物が使われる環境など、様々な対象を扱います。そのため、哲学、数学、認知科学、実験心理学、人工知能、ケーススタディなど、様々な観点からアプローチしています。これらの知見を結集させ、設計を適切に行うための理論と方法を開発していきます。そして、これらの理論と方法に基づき、設計対象の表現やその解析、設計者の発想支援を行うシステムの構築に取り組んでいます。
また近年では、AIを用いることによって概念設計における設計者の知的活動の支援が期待されており、これを受け本研究室でも、自然言語処理などのAIの適用を試みています。
本研究室の取り組み
顧客価値の実現

近年の生活者のライフスタイルの多様化、市場における製品のコモディティ化により、企業はこれまでのように高品質化、低コスト化による戦略のみでは存続が困難です。そこで顧客価値とは何かを再考することが求められており、注目を集めている価値概念が使用価値です。
使用価値とは、人工物が使用される際に使用者に主観的に認められる効用を指します。すなわち、使用価値という価値の捉え方においては、人工物の価値の本質は、人工物に適用されている技術でも客観的に測定できる品質でもなく、その多寡を各使用者が主観的に判断する点にあります。
このような特徴を持つ使用価値は、これまでの工学においては扱われてきませんでしたが、本研究室では、使用価値を工学的に扱う方法を探求しています。
安全設計

人工物は使用者にとっての価値を実現するだけではなく、常に安全に使用することができなければなりません。平時においてどんなに便利な人工物だとしても、頻繁に事故を起こすような人工物は怖くて使うことはできないでしょう。
事故が発生するケースとして、例えば設計者の意図していない誤った方法で使われている場合や想定していない環境下で使用される場合が挙げられます。また、人工物は永久的に使えるのではなく、必ず壊れてしまいます。このようなケースに対応するために、「人は間違える」「ものは壊れる」ことを前提として、人工物の安全性を担保するのが安全設計です。
安全設計を行うためには、人工物が人に危害を与える場面を網羅的に想定し、事前に対策を行うことが重要です。しかし、人工物の使用場面が多様化する昨今では、人手ですべての場面、シナリオを想定するのは容易ではありません。本研究室では、本課題を解決するための方法を研究しています。
設計プロセス管理

現代における人工物は、様々な要素技術が集約されており、複雑な構造を有しています。そのため、設計は様々な領域の専門家を含む複数主体によって行われ、要素設計に於いては部署ごとに分担するのが一般的です。
しかし、要素設計の分担後に、設計対象である人工物の仕様に変更が生じた場合、その変更がこれを組織として効率的に処理することは容易ではありません。また、人工物が使用される場の不確実性が高まっており、製品やサービスをリリースした後に仕様の変更を迫られることもあり、このような場合においても組織的にプロセス管理をする必要があります。
一方、複雑な人工物の情報を逐一人手で管理していては、膨大なコストの発生や納期遅れを発生してしまいます。また、コストや納期を調整できない場合は、品質の低下を招く可能性もあります。
以上の課題を踏まえ、本研究室では、複雑な人工物の情報を計算機上で管理することにより、設計プロセスを効率化する方法を検討しています。